2019年度 税制改正のポイント
デロイト トーマツ税理士法人
藤澤 文太 / 杉村 友輝 / 片桐 啓輔
(1) 研究開発税制の見直し
試験研究費の総額に係る税額控除制度について、税額控除率の計算及び一定のベンチャー企業における法人税額に対する控除上限の計算が見直されました。また、従来の高水準型税額控除制度(平均売上金額の10%を超える試験研究費に係る税額控除制度)については廃止され、総額に係る税額控除の中の税額控除率等の割増制度として統合されました。
中小企業者等についても、税額控除率の計算の見直し及び、従来の高水準型税額控除制度の廃止と中小に係る税額控除制度への統合が行われました。
そのほか、特別試験研究費の額に係る税額控除制度についても一定の見直しが行われました。
試験研究費の総額に係る税額控除制度の見直し
試験研究費の総額に係る税額控除制度について、具体的には下記のとおりの見直しが行われました。
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① 税額控除率について、増減試験研究費割合 (*1) が5%から8%に変更されるとともに、税額控除率の計算方法も下記の表のとおり変更されました。
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② 研究開発を行う一定のベンチャー企業について、控除税額の上限が当期の法人税額の25%から40%に引き上げられました。
研究開発を行う一定のベンチャー企業の範囲 |
次に掲げる要件を満たす法人(適用事業年度終了の日において大法人の子会社等(法令66⑥二、三)に該当する法人及び株式移転完全親法人を除く)
- 適用年度が設立の日から同日以後十年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度に該当すること
- 適用事業年度終了の時において法人税法に規定する翌期繰越欠損金額(国通法2六八(2))があること
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③ 試験研究費の額が平均売上金額 (*2) の10%を超える場合、試験研究費の総額に係る税額控除制度における税額控除率が、上記①により算出した率に、その算出した率×控除割増率 (*3) を加算した率とされることとなりました。
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④ 試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合、試験研究費の総額に係る税額控除制度における控除税額の上限(当期の法人税額の25%又は40%)に、当期の法人税額に(試験研究費割合 (*4) -10%)×2(10%を上限)を乗じた金額が上乗せされる措置について、適用期限が2年延長されました。
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⑤ 試験研究費の総額に係る税額控除制度の税額控除率の上限を14%とする特例の適用期限が2年延長されました。
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改正前 |
改正後 |
税額控除率 |
増減試験研究費割合 |
税額控除率の計算 |
上限 下限 |
増減試験研究費割合 |
税額控除率の計算 |
上限 下限 |
≦5% |
9%-(5%-増減試験研究費割合) x 0.1 |
下限 6% |
≦8% ① |
9.9%-(8%-増減試験研究費割合) x 0.175 ① |
下限 6% |
>5% |
9%+(増減試験研究費割合-5%) x 0.3 |
上限10% (上限14%※) |
>8%① |
9.9%+(増減試験研究費割合-8%) x 0.3 ① |
上限10% (上限14%※ (2年延長) ⑤) |
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試験研究費が平均売上金額の10%超の場合、上記で算出した割合x控除割増率(※)を加算 ③
控除割増率(※) = (試験研究費割合-10%) x 0.5 (10%を上限)
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控除税額の上限 |
当期の法人税額x25%
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試験研究費が平均売上金額の10%超の場合、(試験研究費割合-10%) x2 (10%を上限)を上乗せ※(高水準型と選択)
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当期の法人税額x25%
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一定のベンチャー企業(※)については40% ②
(※)一定のベンチャー企業…設立後10年以内の法人のうち当期において翌期繰越欠損金額を有するもの(大法人の子会社等を除く)。
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試験研究費が平均売上金額の10%超の場合、(試験研究費割合-10%) x 2(10%を上限)を上乗せ※・2年延長 ④
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※は2018年度末まで又は2020年度末までの時限措置
中小企業技術基盤強化税制
中小企業者等 (*5) に係る税額控除については、従来からの特例に対して下記のとおり改正が行われました。
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⑥ 増減試験研究費割合が5%を超える場合の特例が、増減試験研究費割合が8%を超える場合の特例に見直され、その適用期限が2年延長されました。
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⑦ 上記③と同様に、試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合に税額控除率を割り増す措置がとられました。
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改正前 |
改正後 |
税額控除率 |
増減試験研究費割合 |
税額控除率の計算 |
上限 下限 |
増減試験研究費割合 |
税額控除率の計算 |
上限 下限 |
≦5% |
12% |
— |
≦8% ⑥ |
12% ⑥ |
— |
>5% |
12%+(増減試験研究費割合-5%) x 0.3※ (下線部が時限措置) |
上限 17%※ |
>8% ⑥ |
12%+(増減試験研究費割合-8%) x 0.3 ⑥ |
上限 17% (2年延長) ⑥ |
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試験研究費が平均売上金額の10%超の場合、上記で算出した割合x控除割合率を加算 ⑦
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控除税額の上限 |
当期の法人税額 x 25%
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試験研究費が平均売上金額の10%超の場合、(試験研究費割合-10%)x2(10%を上限)を上乗せ※(高水準型と選択)
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中小法人:増減試験研究費割合5%超の場合、10%上乗せ※ (高水準型と選択)
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当期の法人税額 x 25%
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一定のベンチャー企業については40% ②
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試験研究費が平均売上金額の10%超の場合、(試験研究費割合-10%)x2(10%を上限)を上乗せ※・2年延長 ④
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中小法人:増減試験研究費割合8%超の場合、10%上乗せ※・2年延長 ⑥
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※は2018年度末まで又は2020年度末までの時限措置
用語の意味
- *1: 増減試験研究費割合
- (試験研究費 - 比較試験研究費(※)) ÷ 比較試験研究費
- ※比較試験研究費
- 直近過去3期の試験研究費の平均
- *2: 平均売上金額
- 当期を含む4期の平均売上金額
- *3: 控除割増率
- ((試験研究費 ÷ 平均売上金額) - 10%) x 0.5 (10%を上限)
- *4: 試験研究費割合
- 試験研究費 ÷ 平均売上金額
- *5: 中小企業等
- 中小企業者((4)参照) 又は農業協同組合等で、青色申告書を提出するもの
特別試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し
特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)について、対象範囲の拡充、税額控除率・控除税額の上限の引き上げ及び運用の明確化が行われました。
- イ、対象範囲の拡充、税額控除率の引き上げ
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特別試験研究費の額の対象となる試験研究に、大企業に委託して行うような民間委託研究が追加され、大企業同士の委託研究もこの制度の利用ができることとされました(下表①及び②)。また、他の者との間で行われる共同研究について、研究開発型ベンチャー企業と共同して行う一定の試験研究とそれ以外に区分されました(下表①)。
この新たに追加及び区分された研究開発型ベンチャー企業との共同研究及び委託研究については、これまでより高い25%という税額控除率が設けられました。
改正後 |
特別試験研究費の範囲 |
共同研究 |
特別研究機関等 |
30% |
大学等 |
追加①研究開発型ベンチャー |
25% |
その他(民間企業等) |
20% |
技術研究組合 |
委託研究 |
特別試験研究機関等 |
30% |
大学等 |
追加①研究開発型ベンチャー |
25% |
中小企業等 |
20% |
公益法人等 |
追加②その他(特定の企業間) |
知的財産権の使用料 |
中小企業等 |
20% |
希少疾病医薬品等に関する試験研究 |
20% |
追加③特定用途医薬品等に関する試験研究 |
出所: 説明資料「平成31年度税制改正等について」(経済産業省)を基にデロイトトーマツ税理士法人作成
- ① 研究開発型ベンチャー企業との共同研究及び委託研究
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- 研究開発型ベンチャー企業との共同研究及び研究開発型ベンチャー企業への下記②の委託研究
- 「研究開発型ベンチャー企業」とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者でその発行する株式の全部又は一部が同法の認定ベンチャーファンドの組合財産であるものその他これに準ずるものをいう。
- ② 特定の企業間の委託研究
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次の要件を満たす企業間の委託研究に要する費用の額
- 受託者の委託に基づき行う業務がその受託者において試験研究に該当するものであること
- 委託に係る委任契約等において、その委託して行う試験研究の目的とする成果をその委託に係る委任契約等に基づき委託法人が取得するものとされていること
- 次のいずれかを満たすこと
- 委託して行う試験研究が委託法人の基礎研究又は応用研究であること
- 委託して行う試験研究が受託者の知的財産権等を利用するものであること
- 委託に係る委任契約等において、その委託に係る試験研究が委託法人の工業化研究に該当するものでない旨又は受託者の知的財産権等を利用するものである旨その他一定の事項が定められていること
- ③ 特定用途医薬品等に関する試験研究
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- 国の指定を受けた医薬品等に関する試験研究について、一定の助成金の交付を受けて行う特定用途医薬品等(*1)に関する試験研究(その助成金の交付を受ける法人の常時使用従業員数が1,000人以下であることが要件)
(*1) 特定用途医薬品等とは、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の特定用途医薬品、特定用途医療機器及び特定用途再生医療等製品のうち、その用途に係る対象者の数が本邦において5万人未満であるものをいう
- ロ、控除税額の上限の引き上げ
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控除税額の上限が法人税額の5%から10%に引き上げられました。
- ハ、対象範囲の明確化
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特別試験研究費のうち大学等との共同研究に係る費用について、研究開発のプロジェクトマネジメント業務等を担う者の人件費の適用が明確化されました。
- 適用時期
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2019年4月1日以後に開始する事業年度より適用されます。