2020年度 税制改正のポイント
デロイト トーマツ税理士法人
渡辺 寛己 / 旗 知満 / 杉村 友輝
(7) 居住用賃貸建物の取得等に係る仕入税額控除の適正化
住宅の貸付の用に供しないことが明らかな建物以外の建物で、取得価額が1,000万円以上の一定のもの(以下、「居住用賃貸建物」)を取得した場合、その課税仕入れ等の税額は、仕入税額控除の適用外とされました。
ただし、居住用賃貸建物のうち住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分は、引き続き仕入税額控除制度の対象とされます。
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本来の処理 |
問題点 |
改正前 |
居住用賃貸建物の取得に係る課税仕入れ
⇒家賃収入(非課税売上)のみの場合は仕入税額控除不可
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居住用賃貸建物に係る課税仕入れの仕入税額控除をとるために、金地金等の売買取引を繰り返し課税売上割合を高める行為を問題視
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改正後 |
居住用賃貸建物に係る取得時の課税仕入については仕入税額控除が適用されない
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仕入税額控除の加算
上記の改正により仕入税額控除制度の適用を認めないこととされた居住用賃貸建物につき、仕入れの日から同日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に住宅の貸付け以外の貸付けの用に供した場合又は譲渡した場合には、それまでの居住用賃貸建物の貸付け及び譲渡対価を基礎として計算した額を当該課税期間又は譲渡日の属する課税期間の仕入控除税額に加算して調整することとなります。
- 適用時期
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2020年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合に適用されます。ただし同年3月31 日までに締結した契約に基づき、同年10 月1日以後に取得した居住用賃貸建物には適用されません。
(8) 子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせたスキームへの対応
法人が子会社株式を取得した後に、子会社から配当を非課税(受取配当等の益金不算入規定の適用)で受け取るとともに、配当により時価が下落した子会社株式を譲渡して譲渡損失を創出させるというスキームが可能となっていました。
このような子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせたスキームを防止するために、子会社から受ける配当等の額が子会社株式の帳簿価額の10%相当額を超える場合には、配当等の額のうち益金不算入となる金額を子会社株式の帳簿簿価から引き下げることとされました。
適用免除基準
次のイ~ニに掲げる配当等の額は、本措置の対象から除外されます。
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適用免除基準 |
イ |
内国普通法人である特定関係子法人の設立の日から特定支配関係発生日(注)までの間において、その発行済株式の総数等の90%以上を内国普通法人若しくは協同組合等又は居住者(以下「内国普通法人等」という。)が有する場合の対象配当金額
(注) 「特定支配関係発生日」とは、法人との間に特定支配関係を有することとなった日をいう。
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ロ |
以下の(a)-(b)≧(c)である場合における特定関係子法人から受ける対象配当金額
- (a) 「配当決議日の属する特定関係子法人の事業年度開始の日における当該特定関係子法人の利益剰余金の額」
- (b) 「当該開始の日からその配当等を受ける日までの間に特定関係子法人の株主が受ける配当等の総額」
- (c) 「特定支配関係発生日の属する特定関係子法人の事業年度開始の日における利益剰余金の額に一定の調整を加えた金額」
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ハ |
特定支配関係発生日から10年を経過した日 |
二 |
対象配当金額が2,000万円を超えない場合におけるその対象配当金額 |
- 適用時期
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2020 年4 月1 日以後に開始する事業年度に受ける対象配当等の額について適用されます。
(9) 電子帳簿等保存制度の見直し
国税関係帳簿書類の電磁的記録の保存方法に、次の2つの方法が加えられます。
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① 発行者のタイムスタンプが付された電磁的記録を受領した場合に、その電磁的記録を保存する方法
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② 電磁的記録につき訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム(訂正又は削除を行うことができないシステムを含む)にて、その電磁的記録の授受及び保存を行う方法
上記②の改正により、経費等の支払時に例えばクレジットカードや交通系ICカード、QRコード決済などを利用した際の決済データを用いて経費処理を行っている場合には、訂正・削除等の要件を満たすシステムを利用しているのであれば紙の領収書等の保存は原則として不要となります。
ただし、決済データの保存のみでは消費税の仕入税額控除の適用のための領収書等の保存要件は満たさないため、帳簿のみの保存が認められない支払金額3万円以上の取引では、決済データだけではなく領収書等の保存も必要である点に注意が必要です。
- 適用時期
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2020年10月1日以後に行う電磁的記録の保存について適用されます。
3. おわりに
企業活動の多様化やグローバル化は年々複雑性を増しており、また、コロナ禍によりテレワークが急速に普及したことに伴い、行政手続きにおける押印廃止の検討等、書類の電子化のニーズが今後さらに高まることも想定されます。
そのような社会情勢を考慮して毎年行われる税制改正により、税制はより複雑となり、専門性を増しています。今回のコラムが、貴社の適切な税務申告の一助となれば幸いです。
本記事の内容は、現時点の情報に基づく一般的な事項の記載にとどまります。
したがって、本記事で説明した税制等の適用を前提とした取引等を実施される場合は、個別の事実関係を踏まえて、専門家の助言を得る事が必要です。
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