2020年度 税制改正のポイント
デロイト トーマツ税理士法人
渡辺 寛己 / 旗 知満 / 杉村 友輝
② 損益通算及び欠損金の通算
連結納税制度の最大のメリットである損益通算、すなわち、グループ内の所得と欠損を相殺できる仕組みは、グループ通算制度に移行した後も残されます。
ただし、納税主体がグループ内の各法人とされたことにより、損益通算の方法が変更されました。
損益通算
通算グループ内に所得の法人と欠損の法人が存在する場合、次のプロラタ計算により、欠損法人の欠損金額を所得法人にて損金算入することとなります。
- 欠損法人の欠損金額の合計額(所得法人の所得金額の合計額を限度)を所得法人の所得金額の比で配分し、所得法人にて損金算入
- 所得法人の所得金額の合計額(欠損法人の所得金額の合計額を限度)を欠損法人の欠損金額の比で配分し、欠損法人にて益金算入
繰越欠損金の通算
繰越欠損金はグループ全体でとらえ、グループ内で通算される点は連結納税制度と同様です。
上記の損益通算をしてもなお欠損金が残る場合には、これを10年間繰越控除し、グループ全体の所得から控除できることとなります(グループ全体で共有使用される欠損金を「非特定欠損金」といいます)。
一方、グループ通算制度開始・加入前に発生した繰越欠損金のうち、通算グループに持ち込まれ「特定欠損金」とされた金額は、その法人の所得を上限にしか使用できないこととなります。
繰越欠損金は、発生年度の古いものから特定欠損金⇒非特定欠損金の順に控除することとなります。
③ 修正・更正時の処理
連結納税制度における修更正では、連結納税グループ内のいずれか1社の数字が変更となった場合は全社で再計算が必要となり、手間がかかっていました。
そのため、グループ通算制度では、損益通算・繰越欠損金の通算によりグループ内他法人と授受した金額は期限内申告書のものに固定し、修更正は対象法人1社のみで行うこととなりました。
④ 時価評価・欠損金の切捨て(開始時・加入時別)
連結納税制度では、制度適用開始時やグループに新たに加入する子法人は、一定の要件を満たす場合を除き、保有資産の時価評価を行い、含み損を清算してから連結納税に参加することとされており、また、開始・加入前の欠損金も切り捨てられることとされていました。また、連結親法人は無条件に時価評価課税・欠損金切り捨ての対象外とされ、さらに連結納税に持ち込んだ繰越欠損金は非特定連結欠損金として、連結グループ全体の連結所得から控除できることとされていました。
グループ通算制度では、子法人の開始・加入時の時価評価課税・欠損金切り捨ての対象について、組織再編税制との整合性を重視する内容に変更されました。すなわち、時価評価課税については適格組織再編同等の要件を満たしているかどうか等により判断され、欠損金切捨てについても、支配関係が5年超継続しているか等により判断されることになりました。この変更により、従来は株式買取りにより100%保有化した場合には必ず時価評価課税・欠損金切捨ての対象となっていたものが、要件を満たせば対象外になります。
また、親法人は特別扱いされず、子法人同様に一定の制限が加わることとなりました。下図の通り、時価評価課税・欠損金切捨ての対象外になるためには一定の要件を満たすことが必要になるほか、繰越欠損金を持ち込めた場合にも特定欠損金とされ、親法人の所得を上限に控除をすることになります。
グループ通算制度開始時の親法人の取扱い
改正点 |
連結納税制度 |
グループ通算制度 |
完全支配関係の継続見込みあり |
完全支配関係の継続見込みなし |
適用開始時の資産の時価評価 |
時価評価対象外 |
時価評価対象外 |
時価評価対象 |
繰越欠損金の持込制限
保有資産の含み損益の利用制限 |
制限なし |
支配関係5年超 制限なし |
共同事業性あり 制限なし |
支配関係5年以内かつ共同事業性なし 一部制限有り |
欠損金切捨て |
持込んだ繰越欠損金損益通算 |
制限なし(連結子法人の所得と通算可能) |
持込んだ欠損金は特定欠損金となり親法人の所得内で控除(SRLYルール) |
グループ通算制度開始時の子法人の取扱い
パターン |
連結納税制度 (判定基準) |
グループ通算制度 (判定基準) |
パターンA:
時価評価課税かつ欠損金切捨て
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パターンB:
時価評価課税はないが含み損益・欠損金の一部制限あり
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- 親法人との完全支配関係継続する見込みあり
- ⇒ 時価評価課税なし
- 親法人との支配関係が5年以内、かつ、共同事業性なし
- ⇒ 含み損益・欠損金の一部制限あり
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パターンC:
時価評価課税もなく、かつ、欠損金持込みも可能(自己所得の範囲内の使用)
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- 完全支配関係5年超(開始時)
- 適格株式交換等による完全子法人化
- 適格合併等により被合併法人等が5年超保有する完全子法人を加入
- グループ内の連結子法人の設立など
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- 親法人との完全支配関係継続する見込みあり
- ⇒ 時価評価課税なし
- 親法人との支配関係が5年超、又は、共同事業性あり
- ⇒ 含み損益・欠損金の一部制限なし
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グループ通算制度加入時の子法人の取扱い
パターン |
連結納税制度 (判定基準) |
グループ通算制度 (判定基準) |
パターンA:
時価評価課税かつ欠損金切捨て
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- 通算グループ内の新設法人
- 適格株式交換等による株式交換等完全子法人
- 適格組織再編成と同様の要件を充足
- いずれも非該当
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パターンB:
時価評価課税はないが含み損益・欠損金の一部制限あり
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- 通算グループ内の新設法人
- 適格株式交換等による株式交換等完全子法人
- 適格組織再編成と同様の要件を充足
- いずれかに該当 ⇒ 時価評価課税なし
- 親法人との支配関係が5年以内、かつ、共同事業性なし
- ⇒ 含み損益・欠損金の一部制限あり
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パターンC:
時価評価課税もなく、かつ、欠損金持込みも可能(自己所得の範囲内の使用)
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- 適格株式交換等による完全子法人化
- 適格合併等により被合併法人等が5年超保有する完全子法人を加入
- グループ内の連結子法人の設立など
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- 通算グループ内の新設法人
- 適格株式交換等による株式交換等完全子法人
- 適格組織再編成と同様の要件を充足
- いずれかに該当 ⇒ 時価評価課税なし
- 親法人との支配関係が5年超、又は、共同事業性あり
- ⇒ 含み損益・欠損金の一部制限なし
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⑤ 投資簿価修正
連結納税制度では、連結納税グループ内の二重課税・二重控除を回避するため、連結子法人株式簿価を調整する投資簿価修正制度がありました。
グループ通算制度では、投資簿価修正制度が大幅に改組され、通算子法人のグループ通算制度の承認が取り消しになる場合、その株式等を保有する通算グループ内の法人では、帳簿価額が離脱子法人の簿価純資産価額×保有割合に等しくなるように修正を行うこととされました。
すなわち、離脱直前の離脱子法人の簿価純資産価額が株式投資簿価となるよう修正することにより、通算子法人をあたかも吸収合併したかのように投資簿価をとらえ、含み損益等を利用した租税回避を防止する改正内容となっています。
⑥ 適用時期
2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。