- 2025. 03. 24
- 会計   
- 管理会計   
EBITDAとは?計算式やメリット・注意点、実務での活用法をわかりやすく解説
グローバル企業との比較やM&A時の企業価値評価においては、純利益や営業利益だけでは企業間の比較が難しい場合があります。そこで重要な指標として注目されているのが、企業の実質的な収益力を評価するEBITDAです。本記事では、EBITDAの基礎知識からEBITとの違い、実務での活用方法までわかりやすく解説します。
- 目次
-
EBITDAとは
EBITDA(イービットディーエー)は、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略です。日本語では「利払前・税引前・減価償却前利益」を意味しますが、決まった訳語があるわけではありません。企業の収益力を測る指標として、グローバルな企業比較において有効な指標として知られています。税制や会計基準の違いによる影響を排除できるため、特にM&Aや企業価値評価の場面で重視されています。
EBITDAの計算方法
EBITDAの計算方法はいくつかありますが、代表的なものは以下の2つです。
営業利益ベースの計算式
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却費※
当期純利益からの計算式
EBITDA = 当期純利益 + 法人税等 + 支払利息(純額、受取利息があれば差し引く)
+ 減価償却費 + のれん償却費※
経理実務では、シンプルで理解しやすい「営業利益ベースの計算式」が広く使われています。
※のれん償却費:企業買収時に発生する無形資産の償却費用
EBITとの違い
EBITDA と混同されやすい指標に、EBIT(Earnings Before Interest and Taxes、イービット) があります。
EBITとEBITDAの主な違いは減価償却費の扱い方にあります。EBITは、その計算過程で減価償却費は既に費用として差し引かれています。一方、EBITDAはこのEBITに減価償却費を戻し加えて計算します。
この違いにより、両者は異なる視点での収益性分析を可能にします。
EBITは減価償却費を差し引いているため、設備投資による費用負担が反映された数値だと言えます。例えば、会社が1億円の機械を購入した場合、毎年の減価償却費がEBITから差し引かれるため、その分だけ数値が小さくなります。
これに対してEBITDAは、差し引かれた減価償却費を戻し加えることで、設備投資による費用負担の影響を除外します。このため、設備投資規模が異なる企業同士でも、純粋な営業活動の収益力を比較することができます。また、税制や会計制度の違いを排除した分析も可能です。
EBITについては、下記の記事で詳しく解説しています。
EBITとは?営業利益やEBITDAとの関係や実務での活用方法・注意点をわかりやすく解説
企業の収益力を示す指標としては他にNOPATも活用されています。詳しくは下記で解説しています。
NOPATとは?計算方法やNOPLATとの違い、実務での活用例をわかりやすく解説
EBITDAを使用するメリット
海外企業との比較が容易
EBITDAは各国で異なる会計制度や金利水準の影響を排除できるため、企業の国際比較が容易となります。例えば、ある日本企業とアメリカ企業が実質的に同じ収益力を持っていても、税率の違いにより当期純利益に大きな差が出ることがあります。
また、減価償却の方法や借入金の利息など、国によって異なる要素も多くあります。
EBITDAは、こうした影響を除外して計算するため、純粋な事業の収益力を国際的に比較することができます。
設備投資の影響を排除できる
EBITDAは減価償却費を差し戻して計算されるため、設備投資の規模や時期に左右されない本業の収益力を評価することができます。
これは、製造業など設備投資額の大きい業種において特に有効です。
例えば、新規設備投資を行った工場と既存設備の工場の収益力比較や、設備の老朽化度合いが異なる事業部門間の業績評価において、より公平な比較が可能となります。
EBITDAの実務での活用方法
EBITDAは主に以下の2つの場面で活用されています
企業価値の評価
企業のM&Aや投資判断において、EBITDAは投資価値を測る重要な指標として活用されています。
特に、企業価値(Enterprise Value:EV、株式時価総額と純有利子負債の合計)をEBITDAで割った「EV / EBITDA倍率」は、M&A実務における標準的な評価指標として広く用いられています。この倍率は、企業の収益力で買収コストを何年で回収できるかを示すため、投資判断の重要な基準となります。倍率が低いほど投資回収期間が短いことを意味しており、投資対象として検討する価値があると考えられます。判断基準は絶対的なものではなく、業界によって適正な倍率水準は異なります。
なお、EVは「株式時価総額(株価 × 自己株式を除く発行済株式数)+ 純有利子負債(有利子負債 − 現預金)」で算出され、企業の総合的な価値を表します。
経営管理での活用
EBITDAは税制や会計制度の違いを排除した分析を可能にするため、事業や部門の実質的な業績評価に適しています。
例えば、海外子会社と日本の事業を比較する際、国ごとの税制や会計基準の違いを気にすることなく、純粋な収益力を比較することができます。
また、老朽化した設備を使用している工場と最新設備を導入した工場の比較では、減価償却費の影響を除外することで、実質的な営業力の差を評価できます。
グループ内の異なる事業分野の比較においても、設備投資規模や償却負担の違いを除外することで、より公平な業績評価が可能となります。
グループ経営における会計処理については、下記の記事で詳しく解説しています。
グループ通算制度とは?経理担当者が押さえておくべき知識や注意点を解説!
連結会計とは?基礎知識から連結財務諸表の作成手順、注意点まで徹底解説
EBITDAを使用する際の注意点
業種による水準の違い
業種によってEBITDAの適正水準は大きく異なります。例えば、製造業では生産設備への大規模投資が必要なため高めの水準となる一方、サービス業では設備投資が少ないため低めの水準となります。このため、企業評価を行う際は、必ず同業他社との比較を行うことが重要です。
実際のキャッシュフローとの違い
EBITDAは企業が生み出す収益力を示す指標ですが、実際のキャッシュフローとは異なります。売上債権や在庫などの運転資本の増減は反映されておらず、実際には支払利息や税金の支払い、設備投資や借入金の返済なども必要となります。
そのため、企業の実態を正確に把握するには、キャッシュフロー計算書や貸借対照表など、他の財務指標と組み合わせた総合的な分析が重要です。
企業の経営分析については、下記の記事で詳しく解説しています。
経営分析の5つの手法や見るべき指標、効率的に行うポイントまで解説!
安全性分析における5つの指標とは?基礎知識や活用時の注意点を解説
損益分岐点分析とは?主要指標の計算方法や活用方法もわかりやすく解説
EBITDAだけでなく他指標と組み合わせた分析が必要
EBITDAは企業の実質的な収益力を測る有用な指標です。
活用にあたっては、指標の特徴をよく理解し、単独での判断は避けましょう。
業種特性や一時的な特殊要因の影響を考慮しながら、複数の財務指標を組み合わせて総合的に分析することで、より正確な企業価値評価や経営判断が可能となります。