• 2025. 02. 17
  • 会計   
  • 電子帳簿保存法

「優良な電子帳簿」とは?
電帳法の税優遇を受けるための要件や留意点を解説

「優良な電子帳簿」とは?電帳法の税優遇を受けるための要件や留意点を解説

電子帳簿保存法の改正により、紙の保存から電子データでの保存へと移行が進んでいます。このなかで「優良な電子帳簿」という言葉をよく耳にするようになりました。優良な電子帳簿とは一体何なのか、その定義から要件、税務上のメリット、留意点までをわかりやすく解説します。

目次

「優良な電子帳簿」とは

「優良な電子帳簿」とは、電子帳簿保存法に定められた一定の要件を満たす電子帳簿を指します。従来の紙の帳簿や一般的な電子帳簿とは異なり、より高度な信頼性と透明性を備えた性質を持っています。所得税法や法人税法などで記帳が義務付けられている帳簿を、要件を満たした電子データとして作成・保存することで、税務上の優遇措置を受けることができます。


参考

「優良な電子帳簿」が注目されている背景

電子帳簿保存法の改正により、2024年以降、電子取引データの電子保存が原則義務化されました。この流れのなかで、より高度な信頼性を持つ優良な電子帳簿への関心が高まっています。過少申告加算税が半減されるなどの税務上のメリットから、優良な電子帳簿の導入を積極的に検討する企業が増えています。


電子帳簿保存法については、下記の記事で詳しく解説しています。

電子帳簿保存法をわかりやすく解説!基礎知識と対応のポイント

一般の電子帳簿との違い

一般の電子帳簿が基本的な保存要件のみを満たせばよいのに対し、優良な電子帳簿はより厳格な要件を満たす必要があります。訂正・削除履歴の保存や帳簿間の相互関連性の確保など、高度な信頼性を担保する機能が求められます。

優良な電子帳簿の要件

優良な電子帳簿として認められるためには、まず基本となる電子帳簿保存法の要件を満たし、そのうえで追加の要件をクリアする必要があります。段階的に必要な要件を見ていきましょう。

電子帳簿として認められる一般的な要件

一般的な電子帳簿(「優良以外の電子帳簿」とも呼ばれます)として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 法令で作成が義務付けられている国税関係帳簿であること
  • 当初からコンピュータで帳簿を作成していること
  • システムの説明書類を保管していること
  • 必要な時にディスプレイ表示や印刷ができること
  • 税務職員からのデータダウンロードの求めに応じることができること

これらの要件を満たせば、帳簿を紙に印刷する必要はなく、電子データのままで保存することができます。

優良な電子帳簿として認められる要件

さらに以下の3要件を満たす場合、優良な電子帳簿と認められます。

要件1:記録事項の訂正・削除履歴の確認ができる

優良な電子帳簿では、データの正確性を保つため、すべての変更履歴を自動的に記録し保存する必要があります。
具体的には以下の情報を必ず記録します。

  • 訂正・削除を行った年月日
  • 訂正・削除前の記録事項
  • 訂正・削除後の記録事項
  • 訂正・削除を行った者の氏名

この機能により、不正な改ざんを防ぎ、取引記録の信頼性を確保します。

要件2:帳簿間の相互関連性を確認できる

会計処理の透明性を確保するため、取引がどのように記録され、どの帳簿に反映されているかを追跡できる機能が必要です。例えば、ある取引について下記のような相互の関係性が追跡できることが必要です。

  • 仕訳帳の記録から、総勘定元帳の該当箇所を確認
  • 総勘定元帳の記録から、元となった仕訳帳の記録を確認

要件3:検索機能を確保する

取引記録を素早く見つけられるよう、以下の条件で検索できる機能が必要です。

  • 取引の日付で探す
  • 勘定科目(売上や経費などの分類)で探す
  • 取引金額で探す
  • 取引先の名称で探す
  • 仕訳番号や伝票番号で探す

国税庁のWebサイトでは、要件の充足状況をステップごとに確認できる判定フローが公開されています。自社の状況を知りたい場合は、参考にしてください。

参考:優良な電子帳簿の要件|国税庁

優良な電子帳簿を導入した場合の税務上のメリット

優良な電子帳簿を導入することで、以下のような税務上のメリットがあります。

過少申告加算税の軽減

過少申告加算税は、確定申告等で申告した税額が実際の納付すべき税額を下回っていた場合に課される追加の税金を指します。事業活動に関する税金の計算は複雑な要因が絡み合うことから、意図せずに申告内容に誤りが生じる場合があります。優良な電子帳簿を採用している場合は、単純な記帳ミスや計算誤りなどによる過少申告が判明した際、加算税が通常の10%から5%へと半減される措置が設けられています。

この軽減措置の適用には事前の手続きが必要です。適用を受けようとする国税の法定申告期限までに、所定の届出書を税務署へ提出することが求められます。届出書の提出を忘れると、たとえ優良な電子帳簿の要件を満たしていても、軽減措置を受けることができないため、注意が必要です。

参考:A1-46、C1-70、H4-1国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出|国税庁

優良な電子帳簿として過少申告加算税の軽減の対象となる帳簿の範囲

  • 仕訳帳

  • 総勘定元帳

  • その他必要な帳簿
    売上帳、仕入帳、経費帳、資金台帳(所得税のみ)、売掛帳、買掛帳、受取手形記入帳、支払手形記入帳、貸付帳、借入帳、未決済項目に係る帳簿、有価証券受払い簿(法人税のみ)、固定資産台帳、繰延資産台帳

    ※ 所得税・法人税の場合の具体例です。消費税については、消費税法に規定する一定の帳簿が対象となります。

青色申告特別控除の拡大

個人事業主の方が優良な電子帳簿を採用する動機の一つに、青色申告特別控除の拡大があります。通常の青色申告では最大55万円の控除が受けられますが、優良な電子帳簿の要件を満たすことで、控除額が最大65万円まで広がります。

ただし、この控除を受けるためには、事前に管轄の税務署への届出が必要となります。一方で、既に55万円控除の要件を満たしている方は、e-Taxでの確定申告を行うことで、優良な電子帳簿の導入なしでも65万円の控除を受けることが可能です。自社の状況に応じて、最適な方法を選択することが賢明でしょう。

参考:A1-16、H4-6 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出手続|国税庁

税務調査対応の負担軽減

優良な電子帳簿には、取引データの正確な記録と追跡機能が備わっています。そのため、税務調査の際に求められる資料の提出や、取引内容の説明がスムーズに行えます。電子データでの確認が容易なため、調査対応の負担が大幅に軽減されるでしょう。

優良な電子帳簿の導入・運用における留意点

優良な電子帳簿の導入・運用を適切に行うために、以下の留意点を押さえる必要があります。

要件を満たすシステムの導入

優良な電子帳簿の要件を満たすためには、対応したシステムの導入や既存システムからの変更が必要です。新規導入の場合は、定められた機能が実装されているかをしっかり確認しましょう。既存システムからの移行の場合は、移行期間や費用も含め、慎重に見極める必要があります。

なお、優良な電子帳簿の要件を満たすシステムには、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が認証しています。システム選定の際は、JIIMAのWebサイトで公開されている認証製品一覧を参考にすることで、要件を満たすシステムを効率的に選定することが可能です。

参考:電帳法スキャナ保存ソフト法的要件認証製品一覧 | JIIMA認証制度 | JIIMA 公式サイト

定期的なバックアップの実施

電子帳簿データの消失は重大な問題につながるため、定期的かつ確実なバックアップの実施が不可欠です。法定保存期間中のデータ保護には万全を期す必要があります。システム障害や自然災害などの不測の事態に備え、クラウドバックアップなど、複数の保存手段を検討することをおすすめします。

アクセス権限の適切な設定

データの改ざんや不正アクセスを防ぐため、利用者ごとに適切なアクセス権限を設定する必要があります。例えば、データの訂正・削除権限は、責任者に限定して付与するのが基本です。定期的な権限の見直しと、アクセスログの確認も欠かせないポイントです。

システムの更新と保守

法改正や技術進歩に対応するため、定期的なシステムの更新と適切な保守が必要です。特にセキュリティアップデートは、データの安全性を確保するうえで重要な要素となります。また、ベンダーのサポート終了時期も意識し、計画的なシステム更新を検討しましょう。

安定した運用体制の整備

優良な電子帳簿の運用が不適切な場合、税務上の優遇措置を受けられなくなるおそれがあります。これを回避するには、担当者への定期的な教育と明確な運用ルールの整備を行い、安定した運用体制を構築することが重要です。こうした取り組みは、人事異動や退職があっても業務の継続性が保たれ、要件に準拠した適切な運用の維持につながります。

優良な電子帳簿の要件を正確に把握し正しく運用しよう

電子帳簿保存法において一定の要件を満たし「優良な電子帳簿」として認められることで、税制上の優遇措置を受けることができます。要件を正しく理解し、システムと運用の両面からの適切な対応が求められます。電子帳簿保存法への対応をはじめとする会計・経理業務に関する課題をお持ちの場合、ぜひICSパートナーズへご相談ください。経験豊富な専門家が、お客様の状況に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。