- 2025. 02. 10
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決算早期化が求められる背景とメリットとは?
ボトルネックや解決方法を解説
企業の決算早期化への取り組みが加速しています。投資家への適時適切な情報開示や経営判断の迅速化など、その重要性は年々高まっていますが、実現するには課題が多く存在します。本記事では、決算早期化が求められる昨今の背景やそのメリットから、ボトルネックとそれを解決するため施策まで、経理部門として押さえるべきポイントを幅広く解説します。
- 目次
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決算早期化が求められる背景
決算早期化とは、決算日から財務諸表の確定までの期間を短縮し、経営状況をより迅速に把握・開示することを指します。具体的には、月次・四半期・年次の決算処理を、従来よりも短期間で完了させることを意味します。当初は法定開示の期限短縮への対応が主な目的でした。
しかし、近年では、決算早期化の意義は大きく変容しています。第一に、デジタル化とグローバル化が進展し、経営判断のスピードが企業の競争力を左右する時代となりました。特にグループ経営においては、連結決算の早期化が経営の機動力に直結する重要な課題になっています。
第二に、企業に求められる情報開示の範囲が大きく拡大しています。投資家や金融機関は、財務情報に加え、非財務情報までの包括的な開示を求めています。その代表的なものがESG情報です。ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス/企業統治)の頭文字を組み合わせた言葉で、企業の持続可能性を評価する情報として注目されています。
ESGについては、「ESG経営とは?国内外の代表事例紹介と基礎知識やメリット・注意点」で詳しく解説しています。
このように、決算早期化は単なる処理の迅速化を超えて、現代の企業経営における重要な経営課題として注目されています。
決算早期化がもたらす3つのメリット
決算早期化には、次のようなメリットがあります。
経営判断の迅速化
経営状況を早期に把握できることで、正確なデータに基づいた迅速な経営判断が可能となります。経営課題を早期に発見し、迅速に対応できると同時に、過去データの分析精度も向上するため、より確実な将来予測が可能です。グループ経営においては、子会社の経営状態を早期に把握・分析することで、グループ全体でのリスク管理や経営資源の最適配分が可能となります。このように、決算早期化は、データドリブンな経営判断を迅速に実現するための重要な要素といえるでしょう。
データドリブン経営やグループの連結会計については、以下の記事で詳しく解説しています。
投資家・金融機関からの信頼性向上
迅速な決算開示は、企業の信頼性向上に直結します。投資家は、企業の情報開示への積極的な姿勢を重視しており、特に機関投資家においては、その質と速度が投資判断の重要な評価基準となっています。
また、金融機関との関係においても、大きなメリットをもたらします。タイムリーな財務情報の提供により、資金調達における交渉力の向上が期待できます。IR活動においては、投資家との対話の質が向上し、長期的な信頼関係の構築につながっていくでしょう。
経理部門の業務効率化
決算早期化への取り組みをきっかけに、経理部門の業務改革が進むことが期待できます。従来の業務プロセスを見直すことで、残業時間の削減や業務の平準化が図れるでしょう。また、業務の標準化と可視化は、特定の担当者への依存度を軽減し、属人化の解消にもつながります。
こうして生まれた余力は、非財務情報の開示や高度なデータ分析といった、より戦略的で付加価値の高い業務へと振り向けることが可能です。
決算早期化を阻む5つのボトルネック
決算早期化の重要性は認識されているものの、実際に進めるにはさまざまな課題が存在します。多くの企業で見られるボトルネックは次の5つです。
月末月初への業務集中
請求書処理や売上計上、経費精算など、複数の経理業務が月末から月初にかけて集中します。特に月末の売上確定や仕入計上、月初の支払処理など、時期的な制約が強い業務が重なることで、経理部門の処理能力を超える事態が発生しがちです。
勘定科目確定の遅延
部門からの証憑(しょうひょう)書類の提出遅れや、収益・費用の計上基準の部門間での不統一が、最終的な金額確定を遅らせています。特にグループ会社間の取引では、相互の確認作業に時間を要し、決算作業全体に大きな遅れが生じることになります。
非効率な業務プロセス
多くの企業で、従来からの業務慣習による非効率なプロセスが残っています。紙の証憑書類を前提とした承認フローや手作業での仕訳入力、複数システム間での手動データ転記など、デジタル化が遅れている業務が依然として存在します。こうした業務プロセスは、スピードの問題だけでなく、人為的ミスのリスクも高めています。
経理の非効率な業務プロセスについては、「経理の無駄な作業を徹底排除!効率化のための3つの方法や成功事例を紹介」で詳しく解説しています。
人材・リソース不足
経理業務には、単なる記帳・仕訳にとどまらず、経営判断に役立つ分析力やシステムへの理解など、より高度なスキルが必要です。しかし、こうした専門性を持つ人材の確保・育成は容易ではありません。業務の属人化や知識の偏在が発生し、柔軟な人員配置を困難にしています。
開示要求の高度化
財務情報に加え、非財務情報の開示が求められるようになり、情報収集・分析の範囲が大幅に拡大しています。特に非財務情報は、評価基準や収集方法が確立されておらず、正確性と信頼性の担保に多くの工数を要すことも少なくありません。
決算早期化を実現する具体的な施策
ボトルネックを解決し、決算早期化を実現するための具体的な施策について解説します。
業務プロセスの見直し
現状の業務プロセスを可視化し、ボトルネックとなる工程を特定することが、改善の第一歩となります。承認プロセスの階層が必要以上に多い、同じような確認作業が複数回行われているなど、非効率な作業を洗い出し、業務の標準化とスリム化を進めます。重要なのは、「なぜその作業が必要なのか」という本質的な問いかけです。
提出期限・締め日の前倒し設定
従来の締め日設定を見直し、決算に必要な資料や情報の提出期限を適切に前倒しすることで、経理部門の処理時間を確保できます。単なる締め日前倒しは現場の負担増加につながるため、現場に配慮した工夫が必要です。具体的には、各部門の業務特性に応じた適切な設定や、提出書類の簡素化、事前準備可能な作業の整理などが有効です。
システム・ツール活用による自動化
決算業務の早期化を実現するためには、システム・ツールの効果的な活用が不可欠です。人為的ミスの防止、作業時間の大幅短縮、データの整合性向上などさまざまな効果が期待できます。特に、クラウド型の統合会計システムの導入は、伝票入力から財務諸表作成、経営資料作成まで一気通貫の処理が可能なため、大幅な効率化に役立つでしょう。以下に代表的なツールを紹介します。
RPA
データ入力や転記作業などの定型的な業務を自動化する。人為的ミスを防止し、業務効率化が図れる。
データ変換ツール
部門・システム間で異なるフォーマットのデータを統合し、一貫性のあるデータセットを自動生成する。人為的ミスを排除しながら、効率的なデータ連携を実現できる。
自動仕訳システム
取引データから自動に仕訳を生成し、会計システムに連携する。定型的な仕訳の入力作業を効率化する。
BIツール
複雑な財務データを任意の切り口で可視化・分析し、タイムリーな経営の意思決定を支援する。
クラウドベースの統合会計システム
財務・経理業務の基盤となるプラットフォームとして、各部門のデータを一元管理する。膨大なデータの収集・集計にかかる時間と手間を大幅に短縮できる。
なお、システム導入の際は、自社の業務フローに合わせた機能の選定と段階的な導入計画の策定が重要です。運用体制や教育計画についても事前に十分な検討が必要です。特に、システム選定や導入計画の策定においては、専門家のアドバイスを受けることで、より確実な成果につなげることができるでしょう。
ここで紹介したシステム・ツールについては、下記で詳しく解説しています。
決算早期化は経営力強化の第一歩
決算早期化は、単なる業務効率化だけでなく、経営判断の迅速化や企業価値の向上につながる重要な取り組みです。実現にはさまざまな社内の課題を克服する必要がありますが、適切な施策を計画的に実施することで、着実に成果を上げることができます。まずは自社の課題を明確にし、できるところから改善に着手することが、決算早期化への第一歩となります。
その実現において、システム選定は特に重要な検討ポイントとなります。自社に最適なシステムを選定し、効果的に活用するためには、専門家の知見を活用することも選択肢の一つです。決算早期化にお悩みの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。