- 2025. 01. 07
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新リース会計基準でどう変わる?
影響や2027年度適用開始に向けた対応手順も
2024年9月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リース会計に関する会計基準」を公表しました。この新リース会計基準により、オフィスビルの賃貸借やコピー機のレンタルなど、これまで費用として計上していた取引の多くを資産として扱うことになります。財務諸表だけでなく、契約管理や業務プロセスにも影響が及ぶため、担当者の方々は準備の進め方に対応に苦慮しているのではないでしょうか。本記事では、新基準の概要や変更点、対応手順など企業の経理担当者が押さえるべき重要なポイントを解説します。
- 目次
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新リース会計基準とは
新リース会計基準の概要
2024年9月13日に新リース会計基準が公表されました。2027年4月1日以後開始する事業年度からの適用となります。最も重要な変更点は、これまで費用処理していた賃貸借取引も含め、原則としてすべてのリース取引を貸借対照表に資産・負債として計上することです。
これまでのリース会計では、ファイナンスリースのような一部の取引のみを資産計上していました。しかし、新基準では、オフィスビルの賃貸借契約や複合機のレンタル契約なども含めた幅広い取引が資産計上の対象となります。この変更により、企業の財務諸表に大きな影響が出ることが予想されます。
参考:企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表|企業会計基準委員会
新リース会計基準の適用開始時期
新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用も可能です。
新リース会計基準の対象企業
主に上場企業とその子会社・関連会社に適用されます。具体的には以下の通りです。
   1.上場企業とその子会社・関連会社
   2.資本金5億円以上または負債総額200億円以上の大会社
   3.監査等委員会設置会社
   4.指名委員会等設置会社
   5.会計監査人を任意設置した企業
これらに該当しない中小企業は、「中小企業の会計に関する指針」に基づき、従来通りの会計処理を継続することができます。
新基準導入の背景と目的
この改正は、国際的な会計基準との調和を図る動きの一環です。2016年に国際財務報告基準(IFRS)と米国会計基準が改正され、すべてのリース取引を資産・負債として計上する「使用権モデル」を採用しました。日本基準もこれに合わせる形で見直しが進められ、2023年5月に基準案が公表され、実務への影響を考慮した検討を経て、2024年9月に正式な基準として公表されました。
国際会計基準や過去の経緯は下記の記事で詳しく解説しています。
国際会計基準(IFRS)と日本基準との違いとは?導入ポイントまで解説!
新リース会計基準(案)とは?概要から改正ポイント、実施時期まで解説
新リース会計基準における3つの重要な変更点
すべてのリース取引が原則オンバランス化
新リース会計基準における最大の変更点は、ファイナンスリースとオペレーティングリースの区分が廃止されることです。これにより、原則としてすべてのリース取引を貸借対照表に資産計上(オンバランス化)することになります。
例えば、これまで単なる賃貸借として扱っていたオフィスビルの賃貸契約も、使用権資産として貸借対照表に計上する必要があります。同様に、複合機やサーバーなどの機器レンタル契約も資産計上の対象となるでしょう。
ただし、企業の実務負担を考慮して、以下の取引については従来通りの費用処理が認められています。
   ・リース期間が12か月以下の短期リース
   ・リース資産の取得価額が300万円以下の少額リース
リース取引の識別方法の明確化
これまでは主に「リース契約」として締結された契約をリース取引として扱ってきましたが、新基準では契約の形式ではなく、経済的実態に基づいて判断します。具体的には、次の2つの要件を満たす契約はリース取引として扱われます。
1.特定の資産を使用する権利があること
   例:専用サーバーの利用契約、特定のオフィスフロアの賃貸契約など
2.その使用を支配する権利が移転していること
   例:契約期間中、借手が自由に使用方法を決定できる場合など
この変更により、従来はリース取引として認識していなかった契約も、新たにリース取引として扱う必要が出てくる可能性があります。
リース期間の考え方の変更
これまでは、契約書に記載された合意期間をそのままリース期間として扱っていました。しかし新基準では、契約に含まれる延長オプションや解約オプションの行使可能性まで考慮する必要があります。
例えば、契約書上は5年契約でも、業務上の必要性から契約更新が確実視される場合は、更新期間も含めてリース期間の見積りを行うことになります。逆に、早期解約の可能性が高い場合は、契約期間よりも短い期間でリース負債を計算します。このように実態に即した期間で計算するため、資産・負債の計上額や費用の期間配分が現行基準と大きく異なってくる可能性があります。
新リース会計基準の企業への影響
新リース会計基準は、企業活動のさまざまな場面に影響します。
財務諸表への直接的影響
新リース会計基準の適用により、多くの企業で財務諸表が変化することが予想されます。最も大きな影響の一つが、貸借対照表への計上額の増加です。これまで費用処理していた賃貸借取引が資産・負債として計上されることで、企業の状況によっては総資産と総負債が大きく増加する可能性があります。店舗やオフィスの賃貸借、生産設備のリースを多用している企業では、その影響が顕著になるでしょう。この結果、次のような財務指標への影響が考えられます。
   ・自己資本比率の低下
   ・ROA(総資産利益率)の低下
   ・有利子負債比率の上昇
経営判断への影響
企業の経営判断、特に設備投資の意思決定にも影響を及ぼすでしょう。例えば、設備投資を検討する際、従来は「購入」と「リース」で会計処理が大きく異なっていたため、この違いが投資判断の要素となっていました。しかし新基準では、両者の会計処理の差異が少なくなり、純粋に事業戦略の観点から調達方法を選択できるようになります。例えば、資金調達コストや保守メンテナンス体制、処分時の費用などがより重要な判断材料となるでしょう。
経理実務・業務プロセスへの影響
新基準により、経理実務が大きく変わります。例えば、リース取引の契約管理の必要性から、経理部門は契約担当部門との密接な連携が不可欠になります。さらに、リース期間の見積りや割引率の設定など、これまでにない専門的な判断も求められます。経理担当者の業務は質・量ともに大きく変化するため、新たな実務体制の構築が急務となります。
経理部門の業務効率化やデジタル化について、詳しくは下記で解説しています。
経理DXが注目されている理由、メリットや進め方、役立つツールを解説
新リース会計基準への対応手順
2027年の適用開始に向けて、どんな対応が必要か手順をおって解説します。
1.現状把握と影響範囲の特定
まずはリース取引の実態を把握することから始める必要があります。特に注意すべきは、形式的にはリース契約ではない取引の存在です。不動産賃貸借契約や機器のレンタル契約、さらにはクラウドサービスの利用契約なども、新基準ではリース取引に該当する可能性があります。こうした取引を含めた影響範囲の調査においては、契約内容の精査から財務インパクトの試算まで、段階的な確認が必要となります。初期段階での適切な影響把握が、その後の円滑な移行の基礎となります。
2.社内体制の整備
新基準への対応は、経理部門だけでは完結しません。契約管理を行う法務部門、実際に機器やサービスを利用する事業部門、システム対応を担うIT部門など、複数の部門が関係します。そのため、各部門の担当者が参加するプロジェクトチームの立ち上げが効果的です。プロジェクトの初期段階では、業務への影響範囲を踏まえたうえで、以下の点について部門間で認識を合わせることが重要です。
   ・新しい業務プロセスの設計
   ・対応に必要な期間・コストの見積り
   ・部門間の連携体制の構築
   ・経理担当者の人材育成・教育計画の策定
3.移行スケジュールの策定
適用に向けたスケジュールは、十分な余裕を持って策定することが重要です。2027年4月の適用開始まで、一見すると十分な時間があるように思えます。しかし、システム対応には要件定義、開発、テスト、データ移行と想像以上の時間が必要です。特に会計システムの刷新や新規導入を検討している場合は、新基準対応を見据えたシステム選定が重要になります。
さらに2026年度末までには、全ての契約の総点検を完了し、期首残高の作成も終えておく必要があります。年度末決算期と作業時期が重なる可能性が高く、実質的な準備期間は限られています。確実な移行のためには、できるだけ早期に具体的なスケジュールを策定するといいでしょう。
会計システムの選定については、下記で詳しく解説しています。
【上場企業・大企業向け】会計ソフトの選び方 押さえておきたい機能や特長
新リース会計基準へ対応は早期着手が不可欠
新リース会計基準は、財務諸表への影響はもちろん、契約管理の方法や投資判断の基準にも大きな変更をもたらす可能性があります。対応すべきことが多く、2027年の適用開始まではそれほど余裕があるわけではありません。早期に対応方針を検討し、確実な移行への準備を進めることが重要です。より効率的な準備のため、外部の知見を活用することも有効な選択肢となります。
新リース会計基準への対応について、お気軽にICSパートナーズにご相談ください。