• 2025. 03. 05
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ICSコラムシリーズ:管理会計 vol.7 第7回「設備投資の経済性計算」

目次

設備投資の経済性計算とは

設備投資の経済性計算とは、設備投資(土地、建物、機械装置等)を行うかどうか採算計算を行うことです。


採算計算を行うにあたり以下の要素を検討します。

①設備を投資してから売却・除却までの期間を対象として、投資による予想増分現金流入額・流出額、投資額を計算します。

②キャッシュフローを予測します。
 投資開始時点のキャッシュフロー
 年々のキャッシュフローの増加額、減少額
 投資終了時点のキャッシュフロー

③貨幣の時間的価値の考慮の有無
 貨幣の時間的価値を考慮する場合、現時点の1円は、1年後の1円より価値があると考えます。
 それは、現時点の1円を1年間運用すると1年後は1円より大きい金額をもたらすと考えるためです。

設備投資の経済性計算を行う方法として代表的なものとして以下の方法があります。

①総投資利益率

②回収期間法

③正味現在価値法

④内部利益率法

上記の①と②は、貨幣の時間的価値を考慮しない方法です。

一方、上記の③と④は、貨幣の時間的価値を考慮する方法です。

投資利益率法

総投資利益率=((増分キャッシュフローの合計額ー投資額)÷耐用年数)÷投資額


例)
0年度末に設備投資実施予定、取得原価2,000、耐用年数5年、残存価額0、減価償却 定額法
投資期間5年間 投資終了時の設備処分価値0
今後5年間の予想税引後営業利益 1年目150、2年目200、3年目100、4年目250、5年目300


各年度のキャッシュフロー

年数 0 1 2 3 4 5 合計
予想税引後営業利益 150 200 100 250 300 1,000
減価償却費 400 400 400 400 400 2,000
増分キャッシュフロー 550 600 500 650 700 3,000
投資額 -2,000 -2,000

総投資利益率=((3,000-2,000)÷5)÷2,000=200÷2,000=10(%)
 キャッシュフロー=税引後営業利益+非現金支出費用(減価償却費)

回収期間法

投資をしてその投資を回収出来る期間を計算する方法です。


例)
①1200を投資して1年目で500、2年目で700のキャッシュフローがある場合、2年で回収出来ます。

年数 0 1 2
キャッシュフロー -1200 500 700
未回収金額 1200 700 0

②1200を投資して1年目で500、2年目で500、3年目で700のキャッシュフローがある場合、
 2年目終了時点での未回収金額 1200ー(500+500)=200
 3年目で700のキャッシュフローがありますので、2+200÷700=2+0.29=2.29(小数第3位を四捨五入)
 2.29年で回収

年数 0 1 2 3
キャッシュフロー -1200 500 500 700
未回収金額 1200 700 200 0

正味現在価値法(NPV Net Present Value)

・NPV(正味現在価値)=PV(現在価値)-投資額
・NPV >0 ・・・ 投資 有利
・NPV< 0  ・・・ 投資 不利




例)
①年間キャッシュフロー300、資本コスト(資金の調達コスト)5%、投資期間3年、投資額800




例)
②年間キャッシュフロー300、資本コスト(資金の調達コスト)7%、投資期間3年、投資額800


内部利益率法(IRR Internal Rate of Return)

投資額・・・①

投資によって将来的に得ることができるキャッシュフロー・・・②

内部利益率・・・ ①=② となる割引率

以下の式の中の r が内部収益率

例)
①年間キャッシュフロー300、内部収益率5%、資本コスト(資金の調達コスト)6%、投資期間3年、投資額816



②年間キャッシュフロー300、内部収益率5%、資本コスト(資金の調達コスト)4%、投資期間3年、投資額816


投資の経済性評価技法の利用実態

・設備投資の経済計算の企業における利用実態として例えば、以下の調査結果があります。

・投資利益率法、回収期間法の利用率が70%を上回っています。

単位:%
経済性評価技法 利用状況
いいえ 稀に しばしば 大抵 常に 利用率
ROI(投資利益率法) 28.1 23.4 18.7 18.7 11.1 71.9
回収期間法 16.8 18.6 15.6 26.3 22.8 83.2
割引回収期間法 33.9 19.9 21.6 16.4 8.2 66.1
正味現在価値法 35.9 15.9 17.6 17.1 13.5 64.1
内部利益率法 50.9 15.0 10.8 11.4 12.0 49.1
リアル・オプション 91.0 7.2 1.8 0.0 0.0 9.0
その他 91.9 3.5 0.6 0.0 4.1 8.1

利用率は[いいえ]以外の選択肢の合計を示す。

(「わが国企業の投資意思決定におけるステークホルダーの影響」北尾信夫のP50より抜粋し加筆)

筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。