• 2025. 02. 19
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ICSコラムシリーズ:管理会計 vol.6 第6回 「業務的意思決定」

目次

業務的意思決定と構造的意思決定

意思決定とは、企業が問題を解決するために将来においてとるべき複数の代替案を評価して選択することです。


管理会計で扱う意思決定には、業務的意思決定と構造的意思決定があります。


業務的意思決定とは、日常的な業務活動に関する短期的な意思決定です。

・自社で製造するか購入するか、追加して加工するかそのまま販売するか等


構造的意思決定とは、経営層が行う組織の構造に変更を及ぼす中長期的な意思決定です。

・製造設備の取得や除却、新製品開発等

意思決定のプロセス

意思決定は、以下のプロセスで実施します。

差額分析

先ほどの意思決定のプロセスの3番目の代替案の評価のおいて経済的効果の評価を行う場合、複数の代替案の評価を行います。

その評価では、原価や利益の変化分を評価します。

変化分の評価であるため差額分析と呼ばれます。

差額分析で使用する原価概念

関連原価

代替案の経済的効果の評価に使用される原価

無関連原価

関連原価でない原価

差額原価

現状と代替案、あるいは各代替案間との差額の原価

未来支出原価と機会原価により計算

未来支出原価

将来の追加的な支出原価

機会原価

A案を採用した場合、採用しなかったB案を採用したと仮定した場合に得られた利益

埋没原価

どの案を採用しても発生する原価(将来の意思決定には影響がない)

部品を購入するか自社で製造するか

計算例

甲社がA部品を購入する場合、20,000円かかります。


A部品を自社で製造する場合、1個当たり以下の製造費用がかかります。

・直接材料費     8,000円
・直接労務費     6,000円  2,000円/時間×3時間
・変動製造間接費   4,000円  2,000円/時間×2時間
・固定製造間接費   2,500円  2,500円/時間×1時間


固定製造間接費は、A部品を製造しなくても発生します。


A部品の必要生産量は、100個であり、その製造のための生産余力はあります。


回答

甲社がA部品を購入する場合、購入費用が1個当たり20,000円かかります。

A部品を自社で製造する場合、固定製造間接費は、A部品を製造しなくても発生するため埋没原価となります。
そのため固定製造間接費は考慮せず18,000円と20,000円を比較して自社製造が有利となります。
購入する場合でも、固定製造間接費は、発生するためです。


また、A部品製造のための生産余力はあるため、A部品の製造のためにB製品等他の製品の製造を減らすことが必要でないため機会原価を考慮することは必要ありません。

逆にA部品製造のための生産余力がない場合、A部品製造のためにB製品の製造を減らす場合、A部品の差額原価とB製品の差額原価の比較を行うことが必要になります。

注文を受けるかどうか

計算例

甲社がA部品を製造するために1個当たり以下の製造費用がかかります。

・直接材料費     8,000円
・直接労務費     6,000円  2,000円/時間×3時間
・変動製造間接費   4,000円  2,000円/時間×2時間
・固定製造間接費   2,500円  2,500円/時間×1時間


A部品の製造のための生産余力はあります。


A部品に対して乙社から1個あたり19,000円で100個の注文があります。


甲社は、乙社からの注文を受けた方が有利でしょうか。


計算例

①差額収益

19,000×100=1,900,000円


②差額原価

(8,000+6,000+4,000)×100=1,800,000円


③差額利益

1,900,000-1,800,000=100,000円


甲社は、乙社からの注文を受けることで、差額利益が100,000円発生します。
そのため注文を受ける方が有利です。

筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。