第5回 「原価企画」
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原価企画とその必要性
生産の上流工程である企画、設計段階から目標原価を設定しその目標を達成するためのコストマネジメントのことです。
原価は、企画、設計段階で大きな割合が確定します。
どのような製品やサービスを何の材料等を使用してどのように作るのかは、製品やサービスの企画、設計段階で決まります。
企画、設計段階で原価を下げるための対策が重要となり、その取り組みとして原価企画を行います。
製造以降で原価を下げる対策の効果は、企画、設計段階の対策の効果に比べると小さくなります。
実際の原価が発生する時は、製造段階です。
実際に材料を投入し機械を使用し人が作業等をすることで実際の原価が発生する時は、製造段階です。
企画、設計、生産準備、製造の各工程と原価の確定、発生する割合との関係を示したのが下の図です。
プロダクトアウトとマーケットイン
プロダクトアウトとは、企業が何をいくらの価格で製品やサービスを顧客に提供するのか、という企業の視点から市場にアプローチする考え方です。
・プロダクトアウトでは、企業が顧客に提供する機能から予定原価を考えてそれに目標利益を加えて目標価格を決定します。
マーケットインとは、顧客が要求する機能や価格を出発点とする考え方です。
・顧客が要求する価格から目標利益を差し引いて許容原価を決定します。
原価企画は、マーケットインの視点での原価計算です。
・そのため、上記の式で計算した許容原価に近づけるためにVE(Value Engineering)を行います。
・許容原価の達成が困難な場合、目標原価を設定します。
・原価企画は、マーケットインの視点のため顧客満足の増大をもたらすということにもつながります。
VE(Value Engineering)
出典:公益社団法人日本バリュ-・エンジニアリング協会(略称:日本VE協会)のWebsiteより抜粋、加筆修正
VEとは、製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し、 システム化された手順によって「価値」の向上をはかる手法です。
価値を上げるために以下の方法があります。
①機能を上げてコストを下げます。
②機能を上げますが、コストは維持します。
③機能を上げて、それに伴いコストも上げますが、コストの上昇は機能の上昇よりも低くします。
④機能を維持して、コストを上げます。
VEでは、製品やサービスの果たすべき「機能」をユーザーの立場からとらえて分析し、その達成手段について様々なアイデアを出します。
・それらのアイデアを組み合わせたり、さらに発展させた上で評価し、最適な方法を選択します。その一連のプロセスを組織の力を結集して行い(チーム・デザイン)、顧客が求める機能を最低のライフサイクル・コストで確実に達成する手段を実現するのです。
VEは、1947年米国GE社のL.D.マイルズ氏によって開発され、1960年頃わが国に導入されました。
・当初は製造メーカーの資材部門に導入され、そのコスト低減の成果の大きさが注目されました。
・その後、企画、開発、設計、製造、物流、事務、サービスなどへと適用範囲が広がるとともに、あらゆる業種で活用されるようになります。
・顧客満足の高い、価値ある新製品の開発、既存製品の改善、業務の改善、さらに小集団活動にも導入され、企業体質の強化と収益力の増強に役立っています。
VEの適用分野は、購入資材費の低減にはじまって、製品全体のコスト低減や製品開発段階にも大きな成果をあげています。
・ 現在は、製品ばかりではなく、組立作業や機械加工、梱包や運搬などの製造工程、さらに物流業務への適用も活発に進められています。
・また、書類の作成や伝票の発行、事務手続きなど、管理業務、間接業務にも適用できます。
原価維持、原価改善、原価企画の関係
量産段階に入った後に展開する継続的な原価低減活動に原価維持と原価改善があり、量産段階に入る前、すなわち源流ないし上流で目標利益の確保を企画する原価管理活動に原価企画がある。
種類 |
生産プロセスとの関係 |
前提条件 |
活動内容 |
原価維持 |
製造プロセスで実施 |
経営構造や生産諸条件は変えない |
実際原価が標準原価を超えないように統制を実施 |
原価改善 |
製造プロセスで実施 |
製造方法の改善や投入資材の変更 |
製造方法の改善や投入資材の変更により標準原価自体を引き下げる活動 |
原価企画 |
企画、設計プロセスで実施 |
製品仕様を確定するまでの活動 |
企画、設計段階でVEを行い許容原価に近づけるための活動 |
原価企画の採用状態
・2020 年に,アンケートおよびインタビューにより,日本企業の管理会計・原価計算に関する実態調査を実施し,東京証券取引所上場企業155 社からアンケートの回答。
・原価企画を実施していない企業が増えています。
・2020年度で60%を超えています。
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2001~2002年度 |
2011~2012年度 |
2020年度 |
グループで組織的に実施している |
— |
19.8% |
10.9% |
組織的に実施している会社がある |
32.0% |
7.2% |
2.2% |
組織的に実施している事業部がある |
8.3% |
13.5% |
8.7% |
プロジェクト方式で臨時に実施している |
15.5% |
7.2% |
17.4% |
その他 |
0.0% |
0.9% |
0.0% |
実施していない |
44.3% |
53.2% |
60.9% |
回答企業数 |
97社 |
111社 |
46社 |
出典:「日本企業の管理会計・原価計算 2020 年度調査
~「レレバンス・ロスト」は今なお続いている~ 川野克典」P13 、P35 より抜粋、加筆修正
- 筆者プロフィール
- 吉田 圭一
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大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、
外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。