• 2025. 01. 15
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ICSコラムシリーズ:管理会計 vol.3 第3回 「直接原価計算」

目次

直接原価計算とは

直接原価計算とは、原価を変動費と固定費に区分して、変動費のみを対象とした原価計算です。

全部原価計算とは、全部原価(変動費+固定費)を対象とした原価計算です。

変動費とは、売上高に比例して増減する費用のことです。

製造費用の変動費とは、例えば、以下の費用です。

・材料費
・買入部品費
・外注加工費


固定費とは、売上高が増減しても増減しない費用のことです。

製造費用の固定費とは、例えば、以下の費用です。

・減価償却費
・賃借料
・正社員の労務費


全部原価とは、一定の給付に対して生ずる全部の製造原価又はこれに販売費および一般管理費を加えて集計したものをいい、部分原価とは、そのうち一部分のみを集計したものをいいます。(原価計算基準)

直接原価計算の特徴

原価を変動費と固定費に区分します。

・製造原価だけでなく、販売費も変動費と固定費に区分します。

・一般管理費は、固定費になります。


直接原価計算では、変動費のみが棚卸資産に含まれるため売上高に比例する費用のみが売上原価になります。

・固定費は、期間原価として扱われます。そのため、製造原価のうち固定費は棚卸資産の原価に含まれません。

・全部原価計算の場合、製造原価のうち固定費も棚卸資産に含まれます。

・そのため、直接原価計算と全部原価計算では、棚卸資産の金額が異なります。

・財務諸表の作成には、棚卸資産は、全部原価で計算する必要があります。直接原価計算で計算した棚卸資産の金額を調整計算することが必要になります。


損益分岐点分析との関係

・損益分岐点分析は、費用を変動費と固定費に区分して売上高と費用が一致する売上高を計算します。

・直接原価計算では、変動費と固定費を区分しますので損益分岐点分析で活用することが出来ます。


直接原価計算の損益計算書の様式

全部原価計算と直接原価計算の損益計算書の様式は異なります。

・全部原価計算の損益計算書は、売上高から売上原価を控除して売上総利益を計算します。
 売上総利益から販売費及び一般管理費を控除して営業利益を計算します。

・直接原価計算の損益計算書は、売上高から変動売上原価と変動販売費を控除して限界利益を計算します。
 限界利益から固定製造原価と固定販売費と一般管理費を控除して営業利益を計算します。

直接原価計算と全部原価計算の損益計算書の作成 例題1

例題1

売上数量 1,000個    売上単価 2,000円

1個あたり変動製造原価 1,200円

生産数量 1,100個

1個あたりの変動販売費 100円

固定製造原価 165,000円
       150円/個(前期と当期で同一と仮定) 165,000÷1,100(生産数量)=150  

製造原価 変動製造原価+固定製造原価=1,200+150=1,350

固定販売費 55,000円 

販売費 1,000×100+55,000=155,000円

一般管理費 200,000円

販売費及び一般管理費 155,000+200,000=355,000円

期首製品棚卸数量 100個

期末製品棚卸数量 200個  


直接原価計算の損益計算書の作成

回答

売上高 1,000×2,000

期首製品棚卸高 100×1,200

変動製造原価 1,100×1,200

期末製品棚卸高 200×1,200

製造差益 売上高ー変動売上原価=2,000,000-(120,000+1,320,000-240,000)=800,000

変動販売費 1,000×100

限界利益 800,000-100,000=700,000

営業利益 700,000-(165,000+55,000+200,000)=280,000


全部原価計算の損益計算書の作成

回答

売上高 1,000×2,000

期首製品棚卸高 100×1,350

製造原価 1,100×1,350

期末製品棚卸高 100×1,350

売上総利益 売上高ー売上原価=2,000,000-(135,000+1,485,000-270,000)=650,000

販売費 1,000×100+55,000=155,000円

一般管理費 200,000円

販売費及び一般管理費 155,000+200,000=355,000円

営業利益 650,000-355,000=295,000

直接原価計算と全部原価計算の損益計算書の作成 例題2

例題2

売上数量 1,000個    売上単価 2,000円

1個あたり変動製造原価 1,200円

生産数量 1,000個

1個あたりの変動販売費 100円

固定製造原価 165,000円
       165円/個(前期と当期で同一と仮定) 165,00÷1,000(生産数量)=165

製造原価 変動製造原価+固定製造原価=1,200+165=1,365

固定販売費 55,000円 

販売費 1,000×100+55,000=155,000円

一般管理費 200,000円

販売費及び一般管理費 155,000+200,000=355,000円

期首製品棚卸数量 100個

期末製品棚卸数量 100個


直接原価計算の損益計算書の作成

回答

売上高 1,000×2,000

期首製品棚卸高 100×1,200

変動製造原価 1,000×1,200

期末製品棚卸高 100×1,200

製造差益 売上高ー変動売上原価=2,000,000-(120,000+1,200,000-120,000)=800,000

変動販売費 1,000×100

限界利益 800,000-100,000=700,000

営業利益 700,000-(165,000+255,000)=280,000


全部原価計算の損益計算書の作成

回答

売上高 1,000×2,000

期首製品棚卸高 100×1,365

製造原価 1,000×1,365

期末製品棚卸高 100×1,365

売上総利益 売上高ー売上原価=2,000,000-(136,500+1,365,000-136,500)=635,000

販売費 1,000×100+55,000=155,000円

一般管理費 200,000円

販売費及び一般管理費 155,000+200,000=355,000円

営業利益 635,000-355,000=280,000

直接原価計算と全部原価計算の利益の差異理由

直接原価計算では、固定費は、期間原価として扱われます。そのため、製造原価のうち固定費は棚卸資産の原価に含まれないためです。

全部原価計算では、固定費は、製造原価に含まれます。製造したもので販売されず在庫として残った場合、棚卸資産として資産計上されます。

棚卸資産として計上される場合、直接原価計算と全部原価計算では、会計処理の扱いが異なり、そのため利益に差異が発生します。


先ほどの例題1では、生産数量が1100個で販売数量が1000個のため在庫に変動は発生し、その結果営業利益に差が発生しています。

一方、例題2では、生産数量が1000個で販売数量が1000個のため在庫に変動がないため、営業利益に差異が発生していません。


製品単位当たりの固定製造原価×(生産数量ー売上数量)の金額だけ差が発生します。

例題1  150×(1,100-1,000)=15,000円
     295,000 (全部原価計算の営業利益)-280,000(直接原価計算の営業利益)=15,000円

例題2  165×(1,000-1,000)=0円
     280,000 (全部原価計算の営業利益)-280,000(直接原価計算の営業利益)=0円



筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。