第1回 「予算管理」
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予算とは
予算とは、原価計算基準で以下のように定義されています。(原価計算基準より抜粋し修正)
・予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものです。
・予算期間における企業の利益目標を指示し、各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の手段となるものです。
・予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むものです。
予算と予算管理
予算には、損益に関する予算、資金に関する予算、投資に関する予算があります。
損益予算
損益計算書の各項目についての予算であり、売上高予算、売上原価予算、製造予算、商品仕入予算、販売費および一般管理費予算、営業外損益予算などから構成されます。
資金予算
現預金の出入りを中心とした資金繰りについての予算であり、具体的には現金収支予算、資金調達予算などから構成されます。
投資予算
設備投資や有価証券などの投資についての予算であり、具体的には設備投資予算などから構成されます。
予算編成と予算統制
予算管理は、予算編成と予算統制からなります。
予算編成は、予算を計画するプロセスです。
予算統制は、予算と実績の差異を分析し必要な対策を実施することです。
・予算に従って業務を実行し、実行結果である実績と予算の差異分析を行い、必要な対策を実施します。
予算管理の目的
予算管理の目的として主として、以下の目的があります。
・企業が設定した目標とする利益を達成することです。
責任の明確化と目標の共有
各予算はどの部署が担うのか明確にし、また、達成すべき目標を共有します。
調整
予算を編成する過程で各部署間、各担当者間、各部署と経営層の間でリソース(人員、資金等)、目標値等の調整を行います。
業績評価
予算と実績を比較することで業績達成度がわかり業績評価を客観的に行えます。
予算編成手続き
予算編成は、予算を計画するプロセスです。
予算編成の策定手順には、トップダウンで作成、ボトムアップで作成、その折衷方法で作成する手順があります。
・トップダウンとは、経営層が基本方針を作成しそれをもとに各部門が予算を作成する方法です。
・ボトムアップとは、各部門または(および)予算事務担当部門が原案を作成し、それを経営層が承認する方法です。
折衷案とは、経営層が基本方針を作成し、それをもとに各部門が原案を作成し、両者の調整をする方法です。
・実務的には、折衷案が多いです。
予算編成での各部門の目標・方針の設定においては、各部門が参加することがあります。
当初予算を作成してそのままではなく定期的に点検し修正していることがあります。
予算編成時に予算額の基礎に何を使用するかによりゼロベースの編成と前年度実績ベースの編成があります。
ゼロベースの編成
・予算額を前年度実績額ベースではなくゼロから設定する方法です。
・ゼロベース予算は、特定の科目(研究開発費、広告宣伝費等)で使用されるケースがあります。
前年度実績ベースの編成
・前年度の実績額をベースに次年度予算額を設定する方法であり、前年度実績額に物価上昇率、業界動向、社内の環境などを反映してプラス(またはマイナス)**%の上乗せをして決定する方法です。この方法によれば、予算は年々増大する傾向があります。
・ゼロベース予算に比べて予算編成のための作業負担が相対的に高くないため実務的にはこちらのケースが多いです。
損益予算の予算編成の手順
製造業の場合の例
・売上高予算⇒在庫予算⇒生産高予算⇒購買予算⇒部門費用予算⇒売上原価予算⇒販売費及び一般管理費予算⇒営業外損益予算
・各予算は、関連する予算と連動して作成します。
売上高予算
・製品別・顧客別・地域別・部門別等で売上高予算を作成します。
・製品やサービスの種類ごとに数量と単価を区分します。
・外部内部の環境分析、経営計画との整合性等を踏まえて作成します。
在庫予算
・製品別、原材料別の在庫数量の予算を作成します。
・原材料別の単価予算も作成します。
生産高予算
・売上高予算(数量)から在庫予算(数量)を差し引いて生産高(数量)の予算を製品別に算定します。
購買予算
・生産高予算(数量)をもとに原材料の購入数、外注先への発注数を算定します。
・外注先への発注単価の予算も作成します。
部門別費用予算
・労務費、経費、製造間接費の予算を作成します。
・製造間接費とは、製造に関する費用のうち原価の発生が製品の製造に関して直接的に認識されるものです。
売上原価予算
・労務費の配賦率の場合、以下のような配賦率を使用します。
予定配賦率=予算の労務費÷((製品1単位当たりの人作業時間×予算の当該製品の生産数量)の製品別の合計)
・他の製造費用も労務費と同様に適切な予定配賦率を計算します。
・材料費の予定単価、加工費(外注費、労務費、経費、製造間接費)の予定配賦率、生産量(数量)の予算等を用いて予定製造原価の積上計算を行います。これにより製品1単位当たりの製造単価を計算できます。
・売上高予算の製品別の販売数量×製造単価の計算で売上原価予算を計算します。
販売費予算
・販売促進費予算は、前年度の実績と当年度の売上高予算等をもとに作成します、
・販売物流費予算は、売上高予算の販売数量をもとに予算を作成します。
一般管理費予算
・人件費は、各部門からの人員計画と人事担当部門等との調整に基づき計算します。
・オフィス等の賃借料は、前年度実績に基づいて当年度の予定を加味して作成します。
営業外損益予算
・受取利息は、貸付金の予算と予定利率を使用して計算します。
・支払利息は、借入金の予算を予定利率を使用して計算します。
・債権債務の予算と予算用の為替レートと前年度の実績値を用いて為替差損益を計算します。
上記の予算の対象期間は1年間を対象として作成するケースが多いですが、一般的に月次に展開して管理します。
予算と実績の差異分析
月次等の決算を行い、決算(実績)と予算の比較を行い、差異がある場合、その原因の調査と改善策の検討を行います。
・差異の把握、原因調査、改善策の検討のために多くの時間が必要ですが、その一方、迅速性も必要です。
・そのため、月次等の決算にも迅速性が求められます。
・予算は、その責任を持つ部門等の単位で作成しますので、予算と実績の差異分析もその部門等の単位で行います。
・予算が達成できなかった場合、どこに問題があり、次月以降でどうすればよいのか改善策を検討します。
・実績が予算を上回った場合、自社以外の外部環境と自社内の内部環境の観点から要因を分析し、次月以降も予算が達成できるように留意します。
予算と実績の差異分析の実態
2011年 3 月に東証一部上場企業1,669社を対象(回収数・率:155社:9.3%)に調査した小倉・丹生谷(2012)によると以下の内容です。 (「日本企業の管理会計利用実態( 2 )」 のP34より抜粋し加筆)
①「改善・是正措置」88.2%
②「差異の報告(注意喚起)」76.3%
③「戦略・施策の見直し」61.8%
④「部門(子会社)の成果評価」34.9%
⑤「次期予算編成・計画策定の資料」24.3%
⑥「部門(子会社)責任者の業績評価」17.8%
中期経営計画、利益計画、予算の関係
中期経営計画、利益計画、予算の関係の例
・中期経営計画は、企業の中期的な経営目標と現状との差を埋めるための重点施策と施策実施による数値目標(売上、利益等)等を示したものです。
・短期利益計画は、中期経営計画をもとにした1年間の目標利益と実現施策の計画です。
・予算は、短期利益計画をもとにした部門別等の計画です。
- 筆者プロフィール
- 吉田 圭一
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大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、
外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。