• 2024. 10. 23
  • 会計   
  • 管理会計

NOPATとは?計算方法やNOPLATとの違い、実務での活用例をわかりやすく解説

制計算方法やNOPLATとの違い、実務での活用例をわかりやすく解説

経営者や債権者・投資家にとって、企業や事業の真の収益力を把握することは非常に重要な課題です。しかし、複雑な財務構造や一時的な要因によって、実態の把握が困難な場合も少なくありません。そのような課題に応える指標が「NOPAT(税引後営業利益)」です。NOPATは、企業の本質的な収益力を示す指標で、財務構造や一時的な要因の影響を受けにくい特徴を持ちます。本記事では、NOPATの概要や計算方法、類似指標との違い、そして実務での活用例までをわかりやすく解説します。

目次

NOPATとは

NOPATは「Net Operating Profit after Tax」の略称で、「税引後営業利益」と呼ばれています。企業の営業活動から生じる税引後の利益を表すもので、金融活動に関連する受取・支払利息や一過性の損益を除外しています。そのため、株主と債権者に帰属する本質的な利益を表しているといえます。企業が株主と債権者の要求を満たす十分な利益を生み出しているかを判断するうえで、重要な材料となります。

NOPATの特徴

NOPATには次のような特徴があります。

本業による収益力に焦点を当てる

NOPATの大きな特徴の一つは、金融活動の影響と一過性の要因を排除して計算される点にあります。まず、受取・支払利息などの金融関連項目を除外することにより、企業の資金調達方法に左右されない収益力を明確に示すことが可能となります。さらに、特別損益など一時的な損益を計算から除くことで、企業の持続可能な収益力をより正確に反映することができます。これらの特徴により、NOPATは企業の長期的な収益性や競争力を評価するうえで非常に有用な指標といえるでしょう。

例えば、ある小売業の企業が店舗拡大のために一時的に多額の借入をした場合、支払利息が増加して当期純利益は減少するかもしれません。しかし、NOPATではこの金融費用の影響を除外するため、本業の収益力をより正確に把握することができます。

企業間の比較を容易にする

前述のとおり、NOPATは企業の財務構造や一時的な要因の影響を受けにくいため、異なる業種・規模の企業を比較する際に役立ちます。

例えば、負債比率の高い企業と低い企業があった場合、当期純利益では単純な比較が難しいですが、NOPATを使えば両社の事業そのものの収益力を公平に比較できます。また、一時的な要因として、災害による特別損失や資産売却による特別利益などがあっても、NOPATではこれらの影響を除外するため、企業の本質的な収益力を適切に評価することができます。

NOPATの計算方法

NOPATの基本的な計算式は次のとおりです。


   NOPAT = 営業利益 × (1 - 実効税率)


この計算式は、企業が負債を持たず、すべての資金を株主資本で調達していると仮定した場合の税引後利益を表しています。

実際の計算では、財務諸表上の営業利益から出発し、税金費用を調整することで求められます。例えば、ある企業の営業利益が100億円、実効税率が30%の場合、NOPATは70億円(100億円 × (1 - 0.3))となります。

ただし、一時的な要因や特殊な項目がある場合は、それらを除外または調整する必要があります。

NOPATとNOPLAT・当期純利益の違い

企業の収益性を評価する指標にはさまざまなものがありますが、ここではNOPATと類似する指標であるNOPLAT、そして一般的によく使用される当期純利益との違いについて解説します。

NOPLATとの違い

NOPATと類似する指標にNOPLAT(Net Operating Profit Less Adjusted Taxes、みなし税引き後営業利益)があります。

NOPATとNOPLATは、どちらも税引後営業利益をベースに計算しますが、調整方法に次のような違いがあります。

NOPAT

単純に法人税等の税金を税引後営業利益から控除する

NOPLAT

法人税等の税金に加え、繰延税金資産・負債の将来的な影響を考慮したみなし税額を控除する


NOPLATはより精緻な税金の影響を考慮するため、長期的な企業価値評価や投資判断に適しているといえます。

当期純利益との違い

当期純利益とは、すべての収益と費用を考慮した最終的な利益のことで、損益計算書に記載されます。

NOPATと当期純利益は、どちらも企業の収益性を評価する指標として用いられますが、計算対象となる項目に違いがあります。

NOPAT

営業利益のみを対象とし、非営業項目は考慮しない

当期純利益

営業利益に加え、非営業項目も考慮する


非営業項目とは、営業活動以外の活動によって発生する収益と費用を指します。具体的には、投資活動による利益・損失、金利収支、災害や訴訟などによる臨時的な損益が含まれます。

NOPATと当期純利益は、どちらも企業の収益力を評価する指標ですが、当期純利益は事業活動以外の要素も含めた企業の総合的な収益力を評価する際に用いられます。株主への配当原資を考える場合や、一般的な企業業績の指標として広く使用されています。

各指標の使い分け

詳細な企業分析には、NOPAT、NOPLAT、当期純利益それぞれの指標の違いを理解し、適切に使い分けることが必要です。

例えば、ある企業の当期純利益が大きく増加したとしても、NOPATが横ばいであれば、その増加は一時的な要因によるものかもしれません。逆に、当期純利益は減少しているが、NOPATが増加している場合、本業の収益力は向上している可能性があります。このように、単一の指標だけに頼ることなく、複数の指標を組み合わせて分析することで、企業の真の姿をより正確に把握することができます。

NOPATの実務での活用例

NOPATは、企業のコアな営業活動による収益力を分析する指標として、さまざまな場面で活用されています。ここでは、NOPATから算出される重要な指標を紹介しながら、どのように実務に活用されるか解説します。

収益力の評価(EVAの算出)

NOPATを用いて算出されるEVA(Economic Value Added、経済的付加価値)は、企業や各事業が実際に創出した価値を測定する指標です。EVAは、スターン・スチュワート社の登録商標であり、計算式は次のとおりです。


   EVA = NOPAT -(投下資本 × 加重平均資本コスト)


この指標により、企業や各事業が資本コストを上回る価値を創造しているかを明確に判断できます。

特に、多角化企業や複数の事業部門を持つ企業では、各事業の真の収益性を個別に測定するために使用します。例えば、EVAがプラスの事業は企業価値を増大させており、マイナスの事業は価値を毀損していると評価されます。この数値をもとに、経営者は高収益事業への投資拡大や低収益事業の改善・撤退など、事業ポートフォリオの最適化や戦略の見直しに関する意思決定を行うことが可能です。

資本効率の評価(ROICの算出)

NOPATを用いて算出されるROIC(Return on Invested Capital、投下資本利益率)は、投下資本(株主資本と有利子負債の合計)に対する収益性を示す指標です。


   ROIC = NOPAT ÷ 投下資本


ROICを用いることで、企業や各事業が投下された資本をどれだけ効率的に利益に変換しているかを評価できます。この指標は、事業間や競合他社との比較分析に特に有効です。例えば、同業他社と比較してROICが高ければ、その企業は競争優位性を持っていると判断できます。ROICが資本コストを上回る事業は、効率的に価値を創造していると判断できます。これにより、どの事業に重点的に投資すべきかの判断材料となります。

NOPATを正しく理解し意思決定の質を高めよう

NOPATは企業の本質的な収益力を示す重要指標です。金融活動や一時的な要因の影響を排除し、純粋な事業活動による利益を反映するため、企業の持続的な価値創造能力を評価するのに適しているといえるでしょう。実務では、EVAやROICの算出基礎として使用され、重要な意思決定に活用されています。NOPATを正しく活用することで、より深い投資判断や経営戦略の質を高めることができます。企業価値の創造と持続的な成長を実現するための重要な指標として理解を深めることが重要です。