• 2023. 08. 25
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電子帳簿保存法のスキャナ保存制度とは?
対象書類や適用要件を解説

電子帳簿保存法のスキャナ保存制度とは?対象書類や適用要件を解説

電子帳簿保存法は複雑なうえに改正が繰り返されています。要件は徐々に緩和されてきているものの、正しい理解が不可欠なため、電子帳簿保存法への対応に苦労している経理担当者も少なくないことでしょう。本記事では電子帳簿保存法の3種類の区分のうち、スキャナ保存制度について概要やメリットを解説します。

目次

電子帳簿保存法によって認められるスキャナ保存とは

最初にスキャナ保存の概要と電子化の動きを振り返ります。

スキャナ保存とは

電子帳簿保存法の内容は、「電子帳簿保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3種類に区分されます。そのうちの「スキャナ保存」は、所定の書類を電子化(スキャニング)して保存するときの保存要件について規定したものです。対象となるのは主に次の書類です。


  • 紙で受領した国税関係書類(請求書や領収書など)
  • 自社が紙で作成・発行した国税関係書類(請求書や領収書など)の控え

まだ、これらの書類を紙で保存している企業も多いかもしれません。しかし、多くの企業では、スキャナや複合機などをすでに備えているため、新たに機器を導入する必要性は低いでしょう。これらの機器を使って一度書類をスキャニング・保存すれば、電子化によってその後の業務効率向上に貢献します。

また、スマートフォンやデジタルカメラなどでの画像データによる保存も可能です。例えば、営業部員が出張先で領収書をスマートフォンで撮影し、「クラウドサービスにアップロード」「メールに添付して送信」などして会社に提出できます。経理部員は社員が帰社するのを待たずに、経費が発生した時点で精算処理に取り掛かることが可能となるのです。

このように電子化が進むと経費清算のために出社することが不要となり、出張や外回りのほか、テレワークにおいても有効です。

スキャナ保存における要件緩和の動き

電子帳簿保存法では、スキャナ保存制度について要件が細かく定められています。電子データは改ざんや使いまわしのリスクが生じるからです。

しかし、要件が厳しすぎると電子化が進まないため、要件は緩和される方向で改正が進んでいます。例えば、2022年1月にスキャナ保存の要件が緩和され、スキャン時の自署、スキャン後の原本との照合などが不要になりました。要件緩和の流れがある一方で、改正情報を把握し、常に対象書類や最新の要件に対応していくのは簡単ではありません。スキャナ保存の詳細について、次章以降で解説していきます。

※電子帳簿保存法について詳しくは
「電子帳簿保存法をわかりやすく解説!基礎知識と対応のポイント」をご覧ください。

スキャナ保存できる書類とできない書類

スキャナ保存の対象となるのは、決算関係書類を除くすべての国税関係書類と定められています。すなわち、紙で受領した請求書・領収書・注文書・契約書・納品書等の書類です。受領したものに加えて、自社で作成したこれらの書類の控えもスキャナ保存が可能です。

一方で、総勘定元帳や仕訳帳などの帳簿類、貸借対照表や損益計算書などの決算書類は対象外です。決算書類や帳簿は電子帳簿法の3つの区分のうち「電子帳簿等保存」に該当します。

スキャナ保存の要件と2024年以降の改正情報

2023年時点のスキャナ保存の要件と、2024年以降の改正点を解説します。

スキャナ保存の要件

真実性や可視性を確保するため、スキャナ保存では所定の要件を満たす必要があります。ただし、要件は書類の重要度ごとに異なります。重要度は以下のとおりです。

重要書類

決算関係書類以外の国税関係書類のこと(一般書類を除く)で、例えば契約書や領収書などが該当します。

一般書類

資金や物の流れに直結・連動しない書類で、例えば見積書や入庫報告書などが該当します。

過去分重要書類


上の「重要書類」に関しては、記録事項の入力を最長「2カ月と概ね7営業日以内」に行うといった入力期間の制限があるほか、カラー画像による読み取りが求められるなど、より要件が厳しくなっています。そのほか、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」から主要な部分を抜粋して紹介します。


【スキャナ保存の要件(抜粋)】

要件 重要書類 一般書類 過去分重要書類
入力期間の制限    
一定水準以上の解像度
(200dpi以上)による読み取り
カラー画像による読み取り
(赤・緑・青それぞれ256階調(約1677万色)以上)
カラー画像ではなくグレースケールでの保存可
タイムスタンプの付与

出典:電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】| Ⅱ 適用要件【基本的事項】|国税庁 (PDF)

スキャナ保存の最新情報

2024年1月1日以降におけるスキャナ保存の改正点も挙げていきます。2023年12月までは必要とされる下記の要件が不要になります。

解像度・階調・大きさに関する情報の保存

不要となったのはこれらの情報の「保存」です。スキャナ保存する際の解像度(200dpi 以上)や階調(カラー画像)などの要件に変更はありません。

入力者等情報の確認要件

スキャナ保存時に記録事項の入力者(もしくは監督者)情報の確認が、不要となりました。

帳簿との相互関連性の確保

帳簿との相互関連性の確保が必要な書類が「重要書類」に限定されました。一般書類(見積書や入庫報告書など)をスキャナ保存する場合については、相互関連性の確保が不要となりました。


参考:電子帳簿保存法の内容が改正されました|国税庁(PDF)

スキャナ保存のメリットと注意点

電子帳簿保存法の3種類の区分のうち、「電子取引」は対応が必要ですが、「スキャナ保存」と「電子帳簿保存」の対応は任意です。つまり、スキャナ保存への対応は義務ではなく、紙で受領・発行した書類を紙のまま保存しても問題ありません。

しかしながら、今後は電子化やDX推進が企業規模に関わらず浸透すると予想されます。電子化することで、テレワークの実施が難しいとされる経理部門のテレワーク促進も期待できます。企業がスキャナ保存を検討する意義は高いといえるでしょう。

スキャナ保存のメリット

スキャナ保存に対応するメリットとしては、以下が考えられます。

省スペース化

紙で保管するためのスペースが不要になります。必要なオフィススペースを減らすことができるため、コスト削減や空いたスペースの活用などが可能です。

保管の精度が上がる

破損や紛失のリスク軽減や、保管した書類の検索が容易になります。

特に、検索が可能になるメリットは大きいです。経理部門への各種書類の問い合わせは、人件費や労力などの面で大きな課題です。紙で保管していた場合と比較して、書類検索や提供の負担を大幅に軽減できるため、経理部員は自身の仕事に集中でき、社内における効率化が図れます。経理部員だけでなく、問い合わせをする側にとっても効率的といえるでしょう。

また、税務調査の際も、別保管のダンボールから請求書や領収書などの国税関係書類を探し出す手間が激減します。監査の際も同様のメリットが生じます。

スキャナ保存に対応することで、その後の業務においては大きなメリットを享受できるはずです。扱う書類が多い大企業にとっても、バックオフィス部門の人件費や人材不足が課題の中小企業にとっても、メリットが大きいのではないでしょうか。

スキャナ保存の注意点

導入する際には、バージョン管理(訂正削除履歴)ができるシステムやタイムスタンプツールなどの導入費用を考慮する必要があります。また電子化に伴い、セキュリティ対策を徹底しなければなりません。システムやツールを整えても、使う側の意識が低くてはセキュリティリスクが高まります。セキュリティ対策の重要性を周知し、社内全体でのセキュリティ意識向上を目指しましょう。

なお、バージョン管理やタイムスタンプ付与などの要件が守られていないと、電子帳簿保存法に違反し、罰則の対象となる可能性があるので注意しましょう。

電子帳簿保存法のスキャナ保存制度でデータ管理を効率化しよう

スキャナ保存制度の導入は義務ではありませんが、オフィススペースの有効活用やテレワークの推進などさまざまなメリットがあり、企業活動全体の効率化に寄与することでしょう。電子化の流れが加速しているいま、企業においてスキャナ保存制度を導入し、社内のペーパーレス化・電子化を進める意義は大きいでしょう。